次世代食品の革新拠点 シンガポール|未来の食を支える技術と挑戦

将来に向けて持続可能で強靭かつ安定した食料システムを構築することは、世界のフードテック業界にとって極めて重要な課題となっています。中でもシンガポールでは、このテーマが最優先事項として位置づけられています。というのも、同国は気候変動や地政学的リスクといった脅威に常にさらされており、必要とする食料の90%を輸入に依存しているからです。

更新日 2025-06-23
man plating protien food

食料を輸入に依存していることによるリスクの高まりを背景に、シンガポールの急成長する代替食品セクターの企業が動き始めています。彼らの共通の目標は、政府が掲げる「30 by 30」目標 ― 2030年までに国内で栄養需要の30%を生産する ― に沿って、国内のアグリフード産業を変革することです。

この変革を牽引する企業のひとつがScaleUp Bioです。2022年、栄養・食品加工分野のグローバルリーダー企業と、新しい持続可能な食品ソースの商業化と発展を推進する企業との合弁事業として設立されました。ScaleUp Bioは、パイロットから工業スケールに対応するCDMO(受託開発・製造機関)です。

ScaleUp Bioはシンガポールにおいて、食品グレードの精密発酵施設を2か所建設しており、いずれにもアルファ・ラバルの高速分離および膜技術が採用されています。

すでに米国、欧州、オーストラリア、アジアの顧客からの契約も進んでおり、ScaleUp Bioは、スタートアップから既存企業まで、ラボ段階から商業規模の運用までを支援するために、最先端の設備、専門知識、経験、そして必要なサービスを提供しています。

アルファ・ラバルの 次世代食品部門のグローバル責任者であるヨハン・アグレルVPと、 世界各地の同僚で構成されたチームは、 2つのプロジェクトの設計および提案段階において、 ScaleUp Bioと緊密に連携しました。 最初の施設では、 さまざまな構成に柔軟に対応できる分離ソリューションとして、 PureFerm 250 高速分離機を提案しました。

A machine in a factory

「私たちが目指したのは、アルファ・ラバルのソリューションの差別化と価値を示すことで、お客様に“プロセスの専門家”として信頼し、共にこの新興業界での用途開発を進められるパートナーだと感じてもらうことでした」とヨハンは語ります。「PureFerm分離機は複数の利点を備えています。完全密閉構造であり、エネルギー消費を最大40%削減でき、構成に応じて連続または間欠的な固形物の排出運転が可能です。」

この柔軟性は、膜技術の導入を検討する際に重要な要素となりました。

「ScaleUp Bioは、ダウンストリームプロセスにおける高い柔軟性を必要としており、アルファ・ラバルの MultiSystem膜ろ過システムが、パイロットスケールから商業スケールまで要件に応じて対応可能なユニットとして機能する可能性を見出しました」とヨハンは説明します。これら2基の装置に加え、CIPスキッドも設置され、シンガポール初の食品グレード商業用発酵施設において、稼働前試験を完了しています。

シンガポールの食品安全および衛生基準をどのように満たすかという当初の懸念については、設置および試運転の過程で対応がなされました。

「このダイナミックで将来有望な業界の発展を加速するうえで、アルファ・ラバルとのパートナーシップは極めて価値あるものでした。特に、浸漬型微生物発酵によって次世代食品のボトルネックを解消する取り組みにおいて、大きな貢献がありました。今後の継続的な協業を楽しみにしています」と、ScaleUp Bioのゼネラルマネージャーであるアーロン・ヨー氏は述べています。

この施設は、シンガポール島の西部にある新しいハイテク製造地区「トアス」に位置しており、100リットルから10,000リットルまでの浸漬型発酵能力を備えています。ダウンストリーム処理に重点を置くことで、パイロットスケールから商業スケールへの円滑な移行を可能にします。

もう一つの施設は、研究開発向けのラボスケール設備で、新しい食品イノベーションを支援するために設計された装置とサービスを備え、新興の代替食品業界のニーズに応えることを目的としています。

 

お問い合わせ

アルファ・ラバルの製品ソリューションへのご質問や詳細をお求めの方は、こちらのリンクよりお気軽にお尋ねください。

▶ お問い合わせ

man plating food

このプロジェクトにおいて、アルファ・ラバルは MBPX404分離システム および PilotUnit Multiシステム2基 を提供します。後者は、バッチまたはセミバッチモードで微細ろ過、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透など、あらゆる製品のテストに対応できる高い柔軟性を備えています。

「今回の受注の鍵となったのは、お客様との信頼関係でした」とヨハンは語ります。「過去3年間にわたり、彼らが本当に求めているものを深く理解するために取り組んできたので、入札が開始されたときには当社の機器を指定してくださり、あとは価格と納期を最適化するだけでした。」

このプロジェクトは、急成長する業界の最前線に立つ両者にとって、多くの学びをもたらしました。ScaleUp Bioは、グローバルなフードテック業界において、受託開発・製造を含むエンドツーエンドのサービスでイノベーションを支援する、数少ないが成長中の専門B2B企業のひとつとして、大きな可能性を秘めています。一方アルファ・ラバルにとっては、グローバル製品ポートフォリオの中で最適な装置を提供できること、そして研究開発段階から商業生産まで、新たなアイデアの実現を支援できる準備が整っていることを示す機会となりました。

「これらのプロジェクトは、私たちにとって絶対に勝ち取らなければならないものでした」とヨハンは続けます。「アジア初の事例であり、アルファ・ラバルにとって分離・膜技術を広く紹介すると同時に、精密発酵の新しいプロセスや用途に関する重要な知見を得る絶好の市場参入機会となります。この業界の素晴らしい点は、計り知れない可能性を秘めていることです。最終的にどこまで到達できるかはまだ分かりませんが、未来の食料生産の安定性と持続可能性を高めるこの取り組みに参画できることに大きなやりがいを感じています。」

.

他の導入事例をみる

技術ハイライト

Rice Illustration For Off White Background RGB (1)

今後わずか一世代のうちに、増え続ける人口に対応するために、 最大70%も多くの、栄養価が高く健康的な食品が必要とされます。 しかも理想的には、それを生産するのに必要な エネルギー、水、原材料はこれまでより少なく抑える必要があります。 その目標を達成する鍵となるのが、精密発酵です。

De carbonization Illustration For Off White Background RGB

食料生産は、 全温室効果ガス排出量の約3分の1を占めています。 その大部分は、 サプライチェーンの中でも農業の段階で発生しています。 家畜の飼育を不要にすることで、 牛肉の排出フットプリントは、 精密発酵を用いれば 90%削減できるとされています (UNEP, 2023)。

Water used for irrigation Illustration For Off White Background RGB

農業部門は、世界の淡水取水量の70%を占めています。 ここでも、 家畜用飼料の栽培および家畜の飼育の必要性を減らすことで、 農業分野における水の消費量を90%以上削減できるとされています (UNEP, 2023)。