新たな規制の現実 – MEPC 83、FuelEU、EU ETSが船主にもたらす意味
■ 新たな規制の現実 - MEPC 83、FuelEU、EU ETSが船主にもたらす意味 船主がMEPC 83において、燃料投資の意思決定に対する明確な指針が示されることを期待していたとすれば、その答えは「イエスでありノー」です。重要な前進が見られた一方で、いつものように政治的な駆け引きや詳細の先送りもあり、不確実性が残る結果となりました。 規制動向を注視している私たちにとって、メッセージは明確です。「完璧を待ってはいけない」。規制の枠組みは確実に厳しくなっており、その圧力は現実のものとなっています。
更新日 2025-07-22 執筆者 Kate Schrøder Jensen, Regulatory Affairs Specialist, Alfa Laval Marine Division
私はIMOのプロセスを強く信じています。完璧ではありませんし、せっかちな人向けに作られているわけでもありません。でも、なぜこのような進め方をしているのかは理解できます。これは世界的な交渉であり、短距離走ではないのです。明確な指針はこれから示され、2028年1月1日までには新たなガイドラインが次々と確定していくでしょう。遅すぎると感じる人もいるかもしれませんが、業界がしっかりと準備し、意味のある行動を取るための明確な猶予期間が与えられたとも言えます。” - Kate Schrøder Jensen
以下は、合意された内容、すでに提示されている事項、そして今後の検討事項の内訳です。
中期的措置の承認(最大の成果)
MEPC 83の目玉は、IMOによる温室効果ガス(GHG)排出削減のための中期的措置の承認でした。これはシンガポールが提案した2段階のコンプライアンス制度を導入するものです:
- 直接コンプライアンス - 厳格で、実質的に軽微な課徴金を導入。
- ベースターゲット - FuelEU Maritimeとほぼ同等の水準。
この制度は2027年に発効し、2028年から適用開始が見込まれています。いくつかの手続き上の技術的課題は残っていますが、方向性は明確です。
この制度には、2030年まで適用される以下の金銭的ペナルティが含まれます:
- CO₂換算1トンあたり100ドル - 直接コンプライアンス目標を達成できなかった場合。
- さらにCO₂換算1トンあたり380ドル - ベースターゲットも未達成の場合。
この措置はウェル・トゥ・ウェイク(燃料の生産から使用まで)を対象としており、タンク・トゥ・ウェイク(使用時のみ)ではありません。目標を上回った場合、余剰のコンプライアンス単位は艦隊内で移転、マーケット価格での売却、または最大2年間の繰越が可能です。
つまり、実務的には効率性と運航パフォーマンスは「あると良いもの」ではなく、規制上の必須事項となります。ペナルティは使用する燃料の種類だけでなく、使用量にも基づいて課されるためです。
いくつかの大きな疑問点も残されています:
- 資金はどのように再分配されるのか?
- 中期的措置におけるゼロ・ニアゼロ排出燃料・エネルギー・技術(ZNZs)への投資割合は?
- ZNZsの定義はどうなるのか?
- ペナルティの水準は移行を促進し、目標達成に寄与するのか?
- 2030年以降のペナルティはどうなるのか?
不確実性は残るものの、中期的措置の合意は「移行は今始まる」という世界への政治的メッセージを示しています。
北東大西洋ECAの拡大
もう一つの成果は、新たな北東大西洋排出規制海域(ECA)の承認です。これにより、厳格な硫黄規制が拡大され、新造船に対するNOx Tier III規則も継続されます。
この新たな海域により、北半球のECAが拡大され、当該地域を航行する船舶はECAモードでの運航時間が増加します。つまり、超低硫黄燃料の使用時間が増え、排出制御装置への負荷も高まることになります。
FuelEU Maritime:2025年からGHG強度目標が開始
IMOの中期的措置が注目を集める一方で、FuelEU Maritimeはより早く導入されます。
2025年1月から、EU港に寄港する5,000総トン超の船舶は、船上で使用するエネルギーのGHG強度を削減しなければなりません。
これはEU域内航行、EU港への入出港航行、またはその組み合わせに適用されます。
燃料のGHG強度が許容範囲を超えた場合、他の基準に適合していてもペナルティが課されます。この規制は、先進的バイオ燃料、e-fuel、合成メタノールなどの低・ゼロ排出燃料の使用を強く促進しますが、2030年まではLNGの使用も「優遇」されます。
これは単なる燃料選択の問題ではなく、燃料の調達可能性や改造準備の観点からも計画的な対応が求められます。
IMOの中期的措置はFuelEU Maritimeと非常に近いため、両者の比較は避けられません。削減レベルの要件を見ると、IMOの枠組みの方がFuelEU Maritimeよりも厳格です。一方、ペナルティに関しては、単一燃料の観点で2030年と2035年を比較すると、2030年時点ではFuelEU Maritimeの方が厳しいですが、2035年に近づくにつれてIMOの中期的措置の方が高額なペナルティを課すようになります。
IMOが中期的措置を導入する中で、EUがFuelEU Maritimeを廃止するかどうかは、まだ明らかではありません。
EU ETS:CO₂1トンごとに支払いが発生
海運業界はEU排出量取引制度(EU ETS)の対象となり、「汚染者負担の原則」に基づき炭素に価格がつけられます。
2024年から、船主は以下のCO₂排出に対して排出枠を提出する必要があります:
- EU域内航行の100%
- EUへの入出港航行の50%
各EU排出枠(EUA)はCO₂1トン分の排出をカバーし、以下の特徴があります:
- オークションで販売または炭素市場で取引される
- 毎年報告される排出量(タンク・トゥ・ウェイク)に対応して必要
- 上限が毎年減少するため、年々希少かつ高価になる
プレッシャーは三重です:
- 排出量を正確に追跡・報告する
- 十分な排出枠を購入する - 不足すれば厳しい罰則
- EUA価格を航路選定、燃料選択、エネルギー効率、航海計画に反映する
排出には直接的な金銭的コストが伴い、その負担は今後さらに増していきます。
燃料戦略への実務的影響
規制の締め付けが強まる中、燃料戦略において多くの船主が以下の3つの選択肢を検討しています:
- コストを支払う - スクラバーを設置して重油(HFO)を使用し続けることで、低硫黄燃料(VLSFO、MGO)を使用する場合よりもペナルティが少なくて済む。
- LNG燃料船を選択することで、初期段階ではほぼペナルティが発生せず、従来の液体海洋燃料と同等のペナルティ水準に達するのは5年後以降と見込まれる。
- バイオ燃料やe-fuelへの部分的な移行によりペナルティのリスクを低減する。ただし、燃料コストが追加で発生する可能性があり、ペナルティ水準によっては損益分岐点に達しない可能性もある。
明確な傾向として、バイオ燃料やメタノールのような燃料は柔軟性の面で魅力的です。メタノール対応のデュアル燃料エンジンに改造することで、船舶はメタノールと従来燃料の間で切り替えが可能となり、燃料価格の変動や供給の不安定さに対する賢いヘッジとなります。ただし注意点として、IMOのライフサイクル評価ガイドライン(現在策定中)で化石由来メタノールの排出係数がFuelEU Maritime規制と同水準に設定された場合、VLSFO単独使用よりも高額な罰金が課される可能性があります。
MEPC(ES.2)と今後の展望
今後の展望として、MEPCの第2回臨時会合(ES.2)が10月中旬に予定されており、今後の会合では以下のような未解決の重要課題に取り組む予定です:
- 資金再分配メカニズムの定義
- ZNZsに対する過剰達成へのインセンティブ構造の明確化
- 低・ゼロ炭素燃料を考慮した炭素強度指標(CII)およびEEDIの算出式の見直し
- CIIおよびEEDIに将来性があるかという根本的な問い
議論は続きますが、進むべき方向性は変わりません。脱炭素化への圧力は今後さらに高まり、私たち全員に共通の責任が求められています。
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